最も早い段階で行われたキャスティングのミーティングは監督のマーク・ロックとキャスティング・ディレクターのケイト・ブライデンによってイングランド中部地方で開かれた、シャズ役とペリー役の公募オーディションであった。ロックは“リアルな人々”をこの役に採用したかったのだ。 ロックはこう語る。
「スティーブとシャズ役に関しては中部地方出身の名の知られていない人を絶対に採用したかった。シャズ役には本当にリアリティのある人が必要だった。17歳、容姿端麗、活発で天然ボケ、皮肉好き。ルイーズは300人の候補者の中から絞られた2人の女性のうちの1人だった。彼女だと決定する前に我々は彼女を厳しいテストにかけた。ルイーズはこのような経験はなかったし、シャズはこのくらいの年の子には厳しい役だと思ったからね。ルイーズは私達の期待に応えて、役に現実味を加えてくれたよ。」
 ルイーズは経験を積むためにオーディションを受けなさいという演劇の先生からの強い勧めでバーミンガム・コンベンション・センターで開催された公開オーディションに参加していた。それ以前の彼女は学校でのお芝居とナショナル・ユース・シアターで演技した経験しかない。
 彼女はまさか自分が役をもらえるなどとは思っていなかった。「合格したと知った時にはものすごく驚いた。シャズは演じるに最高の役よ。彼女は不器用で頭でっかち、野心的だけどものすごくナイーブなの。初めて脚本を読んでMr.Cを紹介された時は頭が真っ白になってしまった。でも今は作品の中になにかとっても変なものが登場するのは本当に素晴らしいことだと思えるわ!とてもユニークで、おもしろくて、本当にすごいのよ!」
 スティーブのキャスティングに関して、ロックはこの役には本当の怠け者を思い描いていた。「遊び好きで、次から次へと職を変える。メインキャラクターの中では物語を通して一番変化しないキャラクターだが、我々には非常に重要だった。ペリーはルイーズの時と同様、何度かテストを受けてもらったけど直感的に彼だとピンときたんだ。」
 ペリーはノッティンガムにあるカールトン・ジュニア・ワークショップの研修生でTVと舞台出演の経験はあった。「夜はバーミンガムにあるパブで働いていたのだけれど、キャスティングのミーティングに参加するためにシフトを交替してもらわなければいけなかった。役が決まって、ケヴィン・マクナリーと一緒に演じることができてウルリカ・ジョンソンとのキスシーンがあると知った後は、どんなエビが出来上がるのかすごく興味があった。映画ははじめてだったけど、僕が7フィートのエビ相手にボクシングをするなんて狂っていると思ったよ!しかもそれは間違っていなかったね!」

 ビルのキャスティングは結果的にケヴィン・マクナリーが演じることになったが、経験のある役者を見つけなければならなかったので全く別の方法が取られた。
「ビルのキャスティングは難しかったね。ビルはさまざまな特質を兼ねそなえてなければいけなかった。彼は労働者階級で中西部地方出身に見えて、おもしろいんだけれど哀愁漂う要素も持っていなければいけない。どちらかというと明るく、チャーミング、でもここぞと思う時にはブタみたいな男。しかも好かれるタイプのブタ男にもなれる。そして彼は人生で転機を迎えている。派手なシャツをきて女性をナンパしている自分から抜け出すことができるかもしれないし、できないかもしれない。私はいつもビルをややお腹の出た男と想像していた。でも自分の意志があればまだ取り返しがつくかもしれないくらいのお腹だ」とロックは言う。
 「ケヴィンに会った時、彼と私の思い描いているすべての性質を持っているとわかったんだ。ただ彼のお腹があまり出ていないということ以外はね。クリスマス1、2週間前だったかな、彼のキャストはすんなり決まったよ。そしてクリスマスの数日前に彼に電話して『いちかばちかでやろう!』と言ったんだ。そして彼は引き受けて、休暇後には6キロは太って戻ってきた。デ・ニーロが『レイジング・ブル』のためにヨーロッパ中を食べ歩いた話よりは印象的ではないかもしれないけど、かなりそれに近いんじゃないかな。」
 マクナリーは当初エビについての脚本を読めといわれてもピンとこなかった。「エビが登場した時には、どうかばかげたエビでありませんようにと思ったけど脚本を最後まで読み終わるとすごくおもしろかった。登場人物も素晴らしくてね。本当に涙が出るほど笑い転げたよ。脚本は本当にエビを生かしている。これぞまさにコメディ界の偉大な発明だね。」ロックはケヴィンと一緒に仕事をしたことをこう振り返る。「彼は本当に寛大な人物だ。彼は私よりもっと経験のある監督と仕事を共にしてきたのに最初から私に全面的に信頼をおいてくれた。ビルの役を完璧に理解していて、最初から正しいノリとコツをつかんでいた。」
 ロックは7フィートのボクシングエビを商売のネタにしようとするアミッド役にも誰か特別な役者をと考えていた。「マドハヴはすぐに アミッドを理解した。生真面目でミステリアスな雰囲気をもつ男。中古車のセールスマンと守護天使が交じり合ったような男ね。」
 マドハヴが最初に現れた時、彼はこの企画を聞き、ガールフレンドに「これはひどい!なんで自分がこんなものを読んでいるのかわからない。」と言ったそうだ。でも脚本を読み終わったら涙まで流して感動していた。マドハヴは語る。「この役はストレートに演じないとうまくいかない。撮影開始から終了までずっとそう思っていた。現実に生活しているリアルな人々のリアルな感情を表現しなければ意味がない」
 マドハヴは正直にこう言う。「私のエージェントが私にボクシングをする巨大エビについての脚本を送るといったとき、嘘だろ、他になんかないのかよと思ったよ。でも読んですぐそんな考えは吹き飛んだ。感動的でよく書かれた脚本だと思った。だからマークに会ってオファーを受けた時、2つ返事で引き受けたよ。」