「子供の情景」「トロイメライ」など後世に残る名曲を輩出した天才作曲家ロベルト・シューマンの妻クララは、ピアニストとしてヨーロッパツアーを回りながら、妻として、7人もの子供の母として、多忙な日々を送っていた。そんなとき、彼女の前に若き新進作曲家ヨハネス・ブラームスが現われる。
クララに永遠の敬愛と賛美を捧げる陽気なヨハネスは、日常生活の苦労の絶えない彼女にとって太陽のような存在となる。同時に体調不良に悩めるロベルトにとっては唯一の芸術的理解者となり、自身の後継者としてヨハネスを世に送り出そうとするが――。
これまでクララ・シューマンの生涯はさまざまな形で劇化されてきた。中でも映画では、キャサリン・ヘプバーンが『愛の調べ』(1949)、ナスターシャ・キンスキーが『哀愁のトロイメライ』(1985)と、実力と人気を兼ね備えた大女優が演じてきた。本作でこの難役に挑むのは、『マーサの幸せレシピ』で映画賞を総なめにし、アカデミー賞外国語映画賞受賞作『善き人のためのソナタ』で世界から絶賛されたマルティナ・ゲデック。運命的な愛の出逢いと別れを、まろやかな大人の円熟と馥郁たる美しさで官能的に演じた。ロベルト・シューマンには、『エディット・ピアフ?愛の讃歌?』の名優パスカル・グレゴリー。ヨハネスと緊密な関係を深めるクララに嫉妬する反面、最大の理解者ヨハネスを妻に奪われる焦燥を、澄み切った瞳に天才の狂気を宿して熱演する。対する、ヨハネス・ブラームスには、フランソワ・オゾンの『焼け石に水』で女性のみならず男性をも魅了した美青年マリック・ジディ。奔放な軽やかさを振りまきつつ、「一日中ずっと、昼も夜も、あなたを想います」とクララへ捧げる愛をひたむきに演じた。
監督は、『ドイツ・青ざめた母』『林檎の木』など、ニュー・ジャーマン・シネマを代表する名匠ヘルマ・サンダース=ブラームス。彼女はその名からも判るとおり正統なブラームス家の末裔に当たり、これまでタブーとされていたクララとヨハネスとの関係にも肉親ならではの恐れを知らぬ大胆さで深く切り込み、本国ドイツで大きな反響を巻き起こした。
果たして、最愛の夫の死という癒しがたい喪失から再生したクララが見い出した幸福とは?
そして、ヨハネスが生涯を通して貫いたクララへの殉愛のゆくえは?
3人の究極の愛のかたちには、今なお私たちの胸を深く揺さぶる感動と衝撃がある。