聴衆が詰めかけたコンサートホール。演奏を終え拍手喝采を浴びるロベルト・シューマン、クララ・シューマン夫妻は、見知らぬ男に呼び止められた。ヨハネス・ブラームスだった。彼との運命の出逢いを感じたクララは、波止場の薄暗い居酒屋に足を運ぶ。そこでヨハネスの才能を瞬時にして見抜いたクララは、彼の演奏に聴き惚れた。
その頃、ロベルトの持病である頭痛が悪化の一途を辿り始める。作曲さえままならない夫を救わんと、クララは指揮者として楽団員の前に立つ。「女性の指揮など前代未聞」との嘲笑にも耳を貸さずタクトを振り続けるクララは、たちまちオーケストラから見事な演奏を引き出した。
そんなある日、ヨハネスがシューマン邸を訪れる。たちまち夫妻の子供たちの人気者になるヨハネス。こうして、シューマン一家とヨハネスとの奇妙な同居生活は始まった。
クララへの敬愛を隠すことのない陽気なヨハネスは、苦労の絶えない彼女の心を明るく輝かせると同時に、楽団に馴染めないロベルトの最大の芸術上の理解者となる。しかし、頭痛に襲われ深酒に溺れるロベルトは、、ヨハネスを自身の後継者として音楽界に紹介する。そしてクララには、彼らの秘めた思いを見透かすように「私がいなくなってもヨハネスがいる」と告げるのだった。この緊迫に満ちた三角関係に耐えられなくなったヨハネスは、「一日中ずっと、昼も夜もあなたを想います」とクララに誓ってシューマン家を立ち去る。
一方、音楽監督の座を奪われたロベルトは、橋のたもとからライン川に身を投げる。幸いにして一命を取り留めたロベルトは、入院することになる。やがて、独り出産を終えたクララの心の支えとなるべく、ヨハネスが彼女の傍に戻って来た。
クララのもとに、ロベルトの危篤の報が届く。「クララ、決して終わらないよ。私の花嫁」。ロベルトはこう言い残して、最愛の妻の腕の中で静かに息を引き取った。
ついにその時がきたと、ヨハネスはクララに求愛するが、ロベルトと生きた日々は、あまりにも大きな喪失となってクララの心を苛んだ。ヨハネスは囁き続ける。「僕はきみとは寝ないよ。それでも、きみをこの腕でずっと抱き続ける。命が尽きるまで。きみが死んだら後を追う。死の世界へお供する」
クララとヨハネスの友情は、クララの生涯の最期まで続いた。そして、それから約1年後、ヨハネスもまた黄泉の国へと旅立っていった。生前の約束通り、最愛の彼女を追いかけるように......。