KIRIKOU キリクと魔女
北斎漫画との出会い
ミッシェル・オセロイメージ 若い頃から日本の美術に興味があり、独学でかなりの数の墨絵を描いていましたがいずれも失敗に終わりました。というのも墨絵には浸透性がある特別な紙が必要だということさえ知らなかったからです。1970年に初めて日本に滞在したとき、私は早速墨絵教室に通い、そこで正しい筆と墨、紙に出会ったのです。それは私にとって至福の喜びでした。当然のごとく生け花教室にも参加しました。できるだけ日本人のようになろうと努力を重ねていたのです。また同じ頃北斎漫画にも出会い、それ以来心酔しています。彼の作品には生き生きとした人々の姿、情熱、戯れ、そして美が溢れています。私は彼が自ら名づけた別名"画狂老人"が好きです。北斎は私に絵画への情熱と活力を与えてくれた師匠の一人で、ずっと後になって私は日本の物語や詩、美術を取り入れた"Le Manteau de La Vieille Dame"(「老女のコート」)という日本についての10分ほどの短編を制作しました。(註:北斎の「赤富士」などの浮世絵が取り入れられている。)

 私のキャリアは大変厳しいものでした。私が作りたいと思う作品は短編でしか実現せず、まただんだん周囲に認められるようになって映画祭などで賞も取るようになっても貧しく、仕事がない時期が長く続きました。『キリクと魔女』によって私の人生は変わったのです。始めは誰もハリウッド製ではないアニメーション映画に興味を示しませんでした。でも少しずつ口コミで評判が伝わり、フランス国内だけでなく海外でも大成功を収めたのです。『キリクと魔女』がアニメーションの国、日本で公開されることで、この成功も最高潮に達することになります。また私が長年尊敬している高畑勲さんが、私の脚本を翻訳し日本語版の監督をしてくださることは、私にとってまさにおとぎ話のような信じられない喜びです。『キリクと魔女』の成功の後、昔の短編を組み合わせた作品"Princes et Princesses"(「王子と王女」)を制作しましたが、これも大成功で劇場公開、DVD発売だけでなく、本やテレビゲームにもなりました。今度は『キリクと魔女』と"Princes et Princesses"の公開に関する仕事が終わり次第、新作に取り掛かろうと思っています。テーマは中世を舞台にした、移民や南北問題、貧富の差、宗教そしてイスラム文明などになります。多少議論を巻き起こしそうなテーマではありますが、世界規模の大企業にはない創造の自由が私にはありますので、万人のためのおとぎ話を作ることができると確信しています。
ミッシェル・オスロ(Michel Ocelet)
1943年フランスのニースに生まれ、幼少時代をギニアで過ごす。アンジェの美術学校、パリの国立装飾芸術学校、ロサンゼルスのカリフォルニア芸術学院でを学んだ後、伝統的なアニメーションの他に切り絵や影絵、漫画などの技法も取り入れた多才な短編アニメやテレビアニメをつくり出してきた。初の長篇アニメーション映画「キリクと魔女」がフランスで大成功を収め、世界中でも評価を受ける。主な作品は「3人の発明家たち」「王子と王女」。これまでに短編アニメやテレビアニメを約30本制作し、セザール賞、ロンドンのバフタ賞、ザグレブ映画祭、オーゼンセ映画祭、アヌシー映画祭、キエフ映画祭、オタワ映画祭の最優秀賞など数多くの賞を獲得している。1994年には初めてASIFA(国際アニメーション映画協会)の会長に選ばれ、1997年に再選されている。

<フィルモグラフィー>
1976年:Gedeon (「ゲデオン」) (1話5分で60エピソード)
1979年:Les Trios inventeurs (「3人の発明家たち」)
1981年:Les Filles de l'Egalite(「対等な娘たち」)
1982年:Beyond Oil(「油以上に」)
1982年:La Legende Du Pauvre Bossu (「貧しいせむし男の伝説」)
1986年:La Princesse Insensible(「冷酷な王女」) (1話4分で13エピソード)
1987年:Les Qutre Voeux(「4つの願い」)
1989年:シネマシリーズ(各12分)
La Princesse des Diamants( 「ダイヤモンドの王女」)
Le Garcon des Figues(「イチジクの少年」)
La Reine Cruelle(「残忍な王妃」)
La Sorciere (「魔女」)
Princes et Princesses (「王子と王女」)
Icare (「イカロス」)
On ne Saurait Penser a Tout( 「全部考えることなんて出来ない」)
Le Manteau de la Vieille dame(「老女のコート」)
1992年:Les Contes De La Nuit (「夜の物語」)(特別篇26分)
1998年:『キリクと魔女』(71分)

※『キリクと魔女』以外は、日本未公開。
ミッシェル・オスロ(Michel Ocelet)
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8/2(土)、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー