“Why are you creative?”「あなたはなぜクリエイティブなのですか」
シンプルな質問を30年以上問い続ける人物がいる。
「BMW」「フォルクスワーゲン」といった世界の一流企業のコマーシャル製作に携わり、ドキュメンタリー作家としても活躍するハーマン・ヴァスケ監督だ。
大学時代に“クリエイティビティ”の意味を研究し始めたバシュケ監督は、ロンドンの名門広告代理店に入社。
“クリエイティブ・ディレクター”の下で“クリエイティブな案件”を産み出す“クリエイティブ部門”で働いたにも関わらず、“クリエイティブ”の謎は深まるばかり。
「自身のアイデアを抽象的なものから実態のあるものに変化させるものは何なのか?」と考え抜いた果てに辿り着いたのが、冒頭の質問“Why are you creative?”だった。
答えを知るためにヴァスケ監督がとった行動は、単純明快だが、誰にも真似できないことだった。
世界で活躍する“クリエイティブ”な人物に会うため、カメラとスケッチブックを担いで世界中を訪ね歩く旅に出たのだ。
時にアポなし、時にぶら下がり取材でアタックしたのは1000人以上!
50名以上のノーベル賞受賞者や、ダボス会議に出席する大物政治家にカリスマ経営者、カンヌ国際映画祭に参加した監督や俳優たちなどに“Why are you creative?”と質問を投げかけた。
集大成として、2002年にはカンヌ国際映画祭の連動企画として「Why are you creative?」コレクションを開催。
18年には30周年記念として故郷ドイツのベルリンとフランクフルトで大々的にコレクションを発表し、本作が誕生したのだ。
デヴィッド・ボウイ、ホーキング博士、北野武など、世界の偉人が答えるクリエイティブ論に生きるヒントが見つかるかも!?
ヴァスケ監督から放たれる突然の“Why are you creative?”に困惑したり、嬉々として語るセレブリティのインタビュー映像から、本作では107名を厳選。
今は亡きミュージシャンのデヴィッド・ボウイやスティーヴン・ホーキンス博士やネルソン・マンデラ元大統領の貴重な発言に始まり、ダライ・ラマ法王14世やミハイル・ゴルバチョフ元大統領といった世界の超大物が続々登場。
映画界からは、クエンティン・タランティーノ監督やペドロ・アルモドバル監督など巨匠たちが“Why are you creative?”に対し、映画同様に個性たっぷりにおのれの“クリエイティブ”論を語る。
日本人では映画監督でありタレントの北野武、写真家の荒木経惟、パリコレで長年活躍するファッションデザイナーの山本耀司、そしてアーティストのオノヨーコも“クリエイティブ”について自説を明かす。
107人が自問しながら紡ぎだした言葉は千差万別だ。
経験によって育まれた個性、抑圧や退屈への反発、情熱、不安、衝動、遺伝、霊性、性的欲求、退行、金銭。
1つの小さな疑問から始まった旅は、世界の裏側や人間の本質を描くだけでなく、 幸せな人生を送るためのヒントやアドバイスを与えてくれる。
「クリエイティビティ(創造性)」という言葉は、今や人によって意味が異なるバズワードとなっている。
アンディ・ウォーホルにとって創造性とは、必ずお金と関係していた。
セルゲイ・エイゼンシュテインにとって創造性とは、全く関連のない2つのものを組み合わせることによって全く別のものを創造することであった。
トーマス・エジソンにとって創造性とは、「1%のインスピレーションと99%の汗(努力)」であった。
アイルトン・セナにとっては、レースカーが創造性の体現であった。
ペレにとってはサッカー競技場で、モハマド・アリにとっては、ボクシングのリングの中で創造性が生まれた。
では、創造性とは一体何なのか?
僕は学生の頃、「創造性の意味」を探る研究を始めた。
当時、僕にとって創造性とは、コミュニケーションと関係しているように思えた。
よって、マスコミに興味を持つようになり、僕の初めての就職先である広告代理店にたどり着く。
そこで僕は、「クリエイティブ・ディレクター」の下で、「クリエイティブな案件」に取り組み、「クリエイティブな作品」を生み出す「クリエイティブ部門」で働いていた。
すべてが「クリエイティブ(創造的)」なのにもかかわらず、なぜあんなにも単調でつまらなかったのか?
結局僕は、「我々を駆り立てるものはなにか?どうやって自分の仕事を選ぶのか?」ということを考えるようになり、最終的には、「なぜ我々はクリエイティブ(創造的)なのか?」という画期的な疑問にたどり着いたのである。
さらに僕は創造性の深い世界へ飛び込み、「自身のアイディアを抽象的なものから実体のあるものに変化させるものは何なのか?」という問いを自身に問い続けることになる。
この問いをきっかけに、僕は素晴らしい旅路へと乗り出し、やがてそれは、創造性の持つあらゆる側面(芸術的、知的、哲学的、科学的)を探る旅へと発展していった。
現在、Why Are You Creativeコレクションは、1000以上の映像(会話を撮影したもの)、芸術作品、絵画などから成り、50名以上のノーベル賞受賞者、アカデミー賞受賞者、その他のあらゆるクリエイティブな分野で活躍している大家がこのプロジェクトに参加している。
これらの様々な人々が答えを語る映像を見て、あなたも創造性に関して独自の理解を確立することができる。
そこに見出す因果関係を通して自身の理論を立て、独自の答えを出すことができるだろう。
この過程を通る中であなたは今まで存在しなかった「何か」に変わり始める。
つまり、「創造的」な自分になるということだ。
この映画は、創造的な人々にとっての「タイムカプセル」のような映画である。
数十年前から現在に至るまでの会話を記録した映像を通して、創造的なプロセスや創造的な思考に触れることができるタイムカプセルである。
この旅路の途中でスティーヴン・ホーキングと出会った時、彼は僕に「どこかに到着してしまうよりも、希望を抱きながら移動している方がずっといい」と言った。
「希望を抱きながら移動する」というのは、まさに僕が今までやってきたことである。
それでもいまだに最終目的地にたどり着く気配がない。世の中には、創造的な人々が大勢いるように、人が創造的になる理由は山ほどある。
しかし、多様な創造性が存在しながらも、創造性にどっぷり浸かっている人達を繋げる一本の「糸」がある。
それは、「私は私であり、人と違っていても堂々としている」という認識なのだ。
この問いによって僕は、地球上で最も興味深い人達と出会うことができた。
そして最終的に、世の中に対する僕の見方は変えられていった。