歌声にのった少年

9月24日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

姉さん、聴こえる?
世界を変える僕の歌が

紛争の地ガザに生きるムハンマドの夢は世界的な歌手になること。
姉との約束を果たすため、ガザを脱出し夢を叶えた少年の奇跡の実話。

紛争の絶えないパレスチナ・ガザ地区で暮らすムハンマド少年。彼の夢は“スター歌手になって世界を変える”こと。仲良しの姉ヌールと二人の友だちとバンドを組み、拾ったガラクタで楽器を作り、街中で歌っていた。だが、ムハンマドの声が“最高”だと信じるヌールは、「カイロのオペラハウスに出る」というとんでもない目標を立てる。
資金稼ぎと練習を兼ねて結婚パーティで歌い、聴く者に言葉を失わせる美しい声で人々を魅了していくムハンマド。だが計画は予想もしない形で終わりを告げる。ヌールが重い病に倒れ、両親が治療費を用意できないまま亡くなってしまったのだ。姉との約束を守るため、ムハンマドはガザの壁を越えて、オーディション番組「アラブ・アイドル」に出場することを決意する──。
本作のモデルになったのは、全米の人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」のエジプト版「アラブ・アイドル」に出場し、2013年の“アラブ・アイドル”に輝いたムハンマド・アッサーフ。勝ち抜くたびにパレスチナ国民の期待を一身に背負う存在となり、アラブで知らない人はいないスーパースターとなった。現在も歌手を続けながら国連パレスチナ難民救済事業機関青年大使を務めるなど平和への活動を続けている。
この物語に感銘を受けた、イスラエル出身で『パラダイス・ナウ』『オマールの壁』でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたハニ・アブ・アサド監督が映画化。ムハンマドと姉ヌールを始めとする子どもたちを生き生きと演じるのは、オーディションで選ばれたガザに暮らす少年少女たち。どんな状況でも夢をあきらめない感動の物語が、今スクリーンに映し出される―。
撮影は2015年の1月から始まった。ハニ・アブ・アサド監督は、カメラに映る部分にも、映らない部分にも、常に信憑性を求めることが、この映画の重要なポイントだと考えていた。だからこそ本作では、スタッフが安全に行き来することが困難であるにもかかわらず、ガザでロケを行ったおそらく初めての国際映画となったのだ。
2014年の1カ月間に及ぶ爆撃によって、まだ壊滅状態だったガザで撮影は行われたが、それでもハニ・アブ・アサド監督とスタッフたちは驚くべき素晴らしい瞬間を見出すことができた。例えばガザのパルクール(障害物を乗り越えながら走り続けるシーン)のチームは、見事なアクロバティックを驚異的な方法で瞬時にやってのけ、どんなに困難な状況でも芸術が成功することを証明した。
さらにハニ監督は、キャストにガザで暮らす子供を採用することにこだわった。スタッフはガザ中を捜し回り、ガザ全域の学校でオーディションを行った。最終的に4人の素晴らしいガザの子供たちを見つけることができた。彼らは皆、初めて映画に出演し、自然体の見事な演技を披露した。

またハニ監督は、地元のパレスチナ人スタッフを起用し、パレスチナのシーンはすべてガザとジェニーンで撮影を行った。

ハニは自分の映画ではいつも同じ撮影監督、編集者、ライン・プロデューサー、美術監督と一緒に仕事をしている。彼らはハニとともに成長し、今や地元と海外の両方のプロダクションと仕事ができる一流の技術者になった。そういったカメラ裏のアプローチもまた、作品に効果を与えているのだ。映画に現実味を与えるために、ハニはさらに、ベイルートとカイロの屋外シーンを実際に現地で撮影することにこだわった。

1961年、イスラエル北部のナザレ生まれ。オランダで飛行機技師として数年働いたのち、映画界入り。主な作品に『エルサレムの花嫁』(02/未)、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞、カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞に輝いた『パラダイス・ナウ』(05)、ハリウッド映画『クーリエ 過去を運ぶ男』(11)、2度目のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート、カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞ほか数々の賞を受賞した『オマールの壁』(13)などがある。

―これまでの代表作は、自爆テロが題材の『パラダイス・ナウ』や、怒りを抱えたパレスチナの若者を描いた『オマールの壁』など痛烈な社会派ドラマでした。今回は希望を与える音楽ドラマですが、本作を作ろうと思ったきっかけは?

芸術の本質は醜さから美を作ることだと気づいたのです。中身が醜い物語であっても美しく描かれ感動できる芸術作品に人は魅了されます。だから私の仕事は悲しい物語を美しく感動的なものにすることなのです。

―ムハンマド・アッサーフは醜さから美を作ろうとしていた、だからあなたは彼の実話を映画化したいと思ったのですか?

ムハンマドの物語には2つの段階があります。希望と不屈の物語、そして成功の物語です。パレスチナではこの60年間、敗北の物語しかありません。勝利の物語もなければ、サッカーで勝てるチームもなく、1960年代の革命も失敗に終わりました。しかし今、我々パレスチナ人が待ちに待った、成功の物語を手にしたのです。興味深いのは、ムハンマド・アッサーフの物語は、勝利の物語ということなのです。

―映画の中には夢を叶えるという要素もありますよね?

それも非常に重要ですね。これは姉と弟の物語であり、二人の関係性を表現しています。姉は弟に自分の夢を託し、その一方で弟は姉のために腎臓を手に入れようとするが間に合わない、その償いとして弟は姉の夢を実現しようと思う。だからこそこの映画は感動的で面白いのです。

―ムハンマドと初めて会ったのはいつですか?

2014年ヨルダンで初めて会いました。製作側にこの映画を監督したいかを聞かれ、私は彼に会いにヨルダンへ行きました。会ってみると、誰もが惚れこむほど素晴らしく立派な青年だなと真っ先に思いました。

―演出のために、どのくらいストーリーを脚色し、どのくらい真実を残しましたか?

要素としては100%フィクションですが、ストーリーは100%真実です。ムハンマドには姉がいて、2人はとても仲が良く、一緒に歌をうたったが、姉はギターを弾かなかった。ですがウマルのキャラクターは事実とは違い、完全にフィクションです。アッサーフには他にも兄弟姉妹がいますが、印象を強めるため姉1人に設定しました。

1989年9月1日生まれ。アメリカの人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」の中東版「アラブ・アイドル」で2013年に優勝したガザ地区出身のポップスター。祖国への想いを歌い、“ガザの希望”“ガザのロケット”と呼ばれ、パレスチナだけでなくアラブのスーパースターとなった。現在はヨーロッパでもコンサートツアーを行うなど多忙を極めている。また、国連パレスチナ難民救済事業機関青年大使を務めるなど平和への活動を続けている。

―自分の人生が映画になるのは、どのような気分ですか?

もちろん最高です。この世界に入ってわずか3年足らずで自分の映画が作られるなんて、異例の速さだと思いますがとてもうれしいです。自分の人生が映画になるなんて夢にも思いませんでしたし、たとえベッドの中でそういった夢に思いを巡らせていたとしても、叶うわけがないですしね。

―『アラブ・アイドル』で勝つことは、どんな意味がありましたか?

僕の人生で一番重要な出来事であり、この先もずっと重要であり続けると思います。もちろんそれは素晴らしいことだったのですが、もろ刃の剣でもありました。僕は歌うという夢を叶え、今ではアラブ中の人々が僕の歌を歌っています。町でファンに会うと、みんな僕を歓迎してくれます。それに勝ることはありません。それ以上何を望むというのでしょうか?ただ難しいのはプライバシーが無くなるということです。プライバシーは守りたい。僕に課された責任を感じ、時に実際より年を取ったような気分になります。

―希望のシンボルでいることは、どのような気持ちですか?

実のところ責任を感じます。でも人々に希望を与えていると思ってもらえるのはいいことです。僕が『アラブ・アイドル』で優勝したあと、たくさんのパレスチナ人がショーに参加するようになりました。しかも皆、ツワモノばかりです。そのことは僕にとっての希望です。誰もが自分自身を追求すべきであり、環境や状況に左右されてはならないのです。だからこそ今の僕があるのだと思います。
夢が叶う、なんて保証はどこにもない。
だけど動き出さなければ何も始まらない。動かねば! ヒャダイン(音楽クリエイター)
絶望を希望に変える「夢」。夢が大事なのだ。観る人に元気と勇気を与えてくれるすごく熱い映画だ。「夢」など虚しいと、誰にも言わせるな! 鎌田 實(医師/作家)
ハラハラ、ドキドキしながら観ている内に、素晴らしい歌声が人々に与えるパワーの凄さに大感動! ピーコ(ファッション評論家/シャンソン歌手)
3年前にアラブを席巻したアッサーフ旋風を映画で追体験できるとは!世界を変える歌の力にやられました。 中町信孝(甲南大学教授/『「アラブの春」と音楽』著者)
音楽と人の心の美しさと真っすぐさを信じる人に。
そして、もう一度信じたい人に。観てもらいたい映画です。 ナガシマトモコ/orange pekoe(ミュージシャン)
希望は人を裏切らない。
歌声に込められた悲痛。
彼の命に、痛みに、触れて欲しい。
命の歌声がここにある。 サヘル・ローズ(タレント/女優)
土地の、海の、少年少女たちの、美しさに衝撃を受けました。
ガザってこんなところなんだ!!! 小島麻由美(シンガーソングライター)
封鎖下のガザから希望の歌声が聞こえる。
その響きが、アラブ世界全体の魂を揺さぶる。世界に届けガザの声! 古居みずえ(ジャーナリスト)
アラブのアイドル歌手になるサクセス物語からパレスチナのこと、ガザのことがニュースよりも見えてくる。 高橋和夫(放送大学教授)
わが故郷よ、と歌い続けたその声で、パレスチナの人々に喜びを、そして次に希望をももたらした奇跡の物語。 飯野りさ (中東音文化研究者)
パレスチナ、ガザ地区から発せられたこの映画に込められた夢と希望は21世紀の世界に大きな光を灯すかもしれない! 関口義人(大学講師/ジプシー研究)
天井がない監獄と言われるガザにも、パンドラの箱のように、夢と希望の女神だけは残ってくれていました。 山井教雄さん(漫画家/まんがパレスチナ問題」作者)
アラブの旋律は美しい。
故郷への愛情、誇り、心の叫びが音楽そのものだから。
彼はもはやアイドルではない。 常味裕司(ウード演奏家)
ガザの絶望的な現状を背景に“宝石”ようなの輝きと夢を描き出した感動のパレスチナ映画 土井敏邦(ジャーナリスト)
ガザを密出国して、アラブ圏のニューヨークのような大都会カイロにたどり着く。その道のりがいかに困難か。 石田昌隆(フォトグラファー)
少年の小さな希望から絶望へ、そしてふたたび希望へ。
最後はその希望が世界の希望になる。 実話だなんて信じられないスリリングな話。 佐々木俊尚 (作家/ジャーナリスト)
姉の死を乗り越えてガザの絶望からの脱出。歌声が世界を変える希望となる。 政治的メッセージを込めたエンターテイメント性のある優れた作品だ。 臼杵 陽(日本女子大学教授/図書館長)
ムハンマド・アッサーフの美声には注目していましたが、自ら人生を切り拓く力がそれを 支えていたのですね。 松田嘉子(ウード奏者)

※順不同・敬称略