1974年から開催され、今年で42回目を数えるヨーロッパを代表する都市マラソン。毎年9月の最終日曜日に開催され、約4万人が参加。ニューヨーク、ボストン、ロンドンとともに世界6大マラソンのひとつに数えられる人気の大会でもある。高低差20mのフラットコースで、ジーゲスゾイル(勝利の塔)をスタートし、ベルリンの壁、ヴィルヘルム皇帝記念教会など歴史の舞台となった名所を回り、ブランデンブルグ門にゴールする周回コース。
2012年9月末の晴れた秋の日に行われた、ベルリンマラソンのシーンの撮影は複雑を極めた。撮影チームは、ディーター・ハラーフォルデン演じるパウル・アヴァホフが実際にレースに参加する様子を、4万人弱のランナーに加わって撮影することになった。
ドイツ国内で最大規模のイベントの主催者とは、かなり早い段階で取り決めを交わしていた。制作チームと監督は最終的に、ディーター・ハラーフォルデンが実際に参加ランナーの集団の中にいなければならない3つのシーンを撮影した。
スタートの合図でマラソンが始まってから、最初のシーンをクロイツベルク地区のコトブス橋で撮影した。ここでは、ディーター・ハラーフォルデンは、まだ数千人ものランナーにまぎれており、カメラマンのユーディット・カウフマンは、伴走者が1人いることでのみ、彼を識別できる状態だった。伴走者はカメラチームとの連絡用に無線を使い、ディーター・ハラーフォルデンの隣で旗を持っていた。そのときカメラは、参加ランナーの視界に入らない場所にいた。ヨーク橋の近くでは、参加ランナーの集団はかなり遠ざかっていた。この場所では、担いだカメラとエキストラを使っての撮影が可能だった。さらに、ポツダム広場近くのライプツィヒ通りでの撮影では、第2チームによってマラソンコース全体の撮影が行われた。彼らは、観客の反応や他のランナーたち、音楽で気分を盛り上げランナーたちを励ますバンドといった、このイベントの周辺で見られる出来事を撮影した。
複雑な計画ではあったが、撮影作業は滞りなく進み、ディーター・ハラーフォルデンは“作品内でのマラソンデビュー”を、歓声を受けつつ果たした。唯一の障害となったのは時間だった。この撮影に与えられたのは5時間だけ。最後のランナーが通過したら、交通のために通りを完全に明け渡さなければならないからだ。これは文字通り時間との戦いだった。制作スタッフはこの日、最後のマラソンでパウル・アヴァホフが感じるであろうことを、追体験することとなった。